発達障害求刑超え判決に賛否
42歳の被告にはアスペルガー症候群の症状があり、それが原因で正常な人間関係を築けず、小学五年生で不登校になり、引きこもりになった。転校などを希望しても親に許してもらえず、それを姉のせいだと思い込み、それ以来姉を恨むようになっていた。
事件は、被告の自立を促すため一部の援助を断った姉に被告が激高し、姉を刃物で何度も刺して殺害したというものです。
アスペルガー症候群は広汎性発達障害の一つで、統合失調症などの精神疾患とは異なり、幻覚や幻聴などの異常はなく、精神遅延もないため、姉に対する逆恨みは、アスペルガーの影響があるとはいえ、アスペルガー症候群のせいではありません。
当然本人に罪を犯した自覚もあり、責任能力もあります。ですから罪を償うこと自体は当然ですし、今回のような逆恨みによる残虐な行為に対する罪が、懲役二十年に当たるというのは妥当かと思われます。
しかし、検察の求刑が懲役16年だったのに対し、判決がそれを上回る懲役20年で、その理由が、アスペルガー症候群の被告には、障害により相手の気持ちを理解できないのはやむを得ないが、(障害のために)反省が見られない上に、家族も引取を拒否しており、再犯の可能性の高さを考えると、少しでも長い間服役することが「社会秩序の維持に役立つ」から刑期を伸ばした。とも取れる判決部分です。
罪に対する刑の重さが判断されたのではなく、「アスペルガー症候群である被告には反省を促すことが困難で、社会的な受け皿もなく再犯の可能性が高く危険だから」刑期が増えた、要するに、普通の逆恨みじゃなくて、「アスペルガーだから刑期が四年増えた」のだとしたら、それは違うだろうと思ってしまいますよね。
アスペルガーだから話してもわからないんじゃないんです。他の人と同じような説明ではわからないだけです。
他の人とは感情の基準や気持ちの持ち方は違っても、アスペルガー症候群の人にだって反省は出来るし、再犯を防ぐことも、他の犯罪者と変わらない程度には可能です。
今回の判決のような理論が通ってしまうと、社会は、更正のための努力をするのではなく、問題のある人達をなるべく長く刑務所に入れておくことで、社会秩序を守ろうということになってしまいます。
前にも書きましたが、アスペルガーの人は、故意に相手の気持ちを傷つけたり、人を騙すことが出来ないので、本当に性格の悪い人間はいません。
ですから、彼らを追い込むような周囲の無理解や排除がなければ、アスペルガーの人達は、本来危険人物ではないんです。
ただ本人も周囲も、お互いに誤解しやすく、気持ちを共有することが困難なので、周囲の理解やサポートが必要になります。 発達障害に対して、早期発見や療育、自立支援などを目的にした支援法が2005年に施行
され、当事者や家族らの相談を受ける「発達障害者支援センター」が各都道府県に1カ所以上設置されたそうですが、充分に機能しているとは言えない現状です。
刑期を延長して社会の秩序を守ることは出来ませんが、これらの公的な支援を強化することで、犯罪の抑制、再犯の防止に繋がるはずです。
また、正当防衛や事故、戦争以外で殺人を犯すような人には、何らかの精神的な背景があることはまず間違いありません。
いじめにしても同じで、いじめの主犯格に、心の傷があることはまず間違いないでしょう。 罪を犯す人達はある意味弱者です。
無視されたり、恐怖を感じたり、自信がないから怒るし、他者を攻撃したくなります。
周囲から愛され、正常な自尊心が育っている人間は、人を虐めたり殺したりすることはありません。そんな必要がないからです。
それはアスペルガーや精神疾患を持っている人でも同じです。どんな人間でも、彼らの心が追い詰められなければ、罪を犯す可能性はぐっと低くなります。
人が人を追い詰めない社会、お互いがお互いを尊重する社会になれば、無差別殺人や怨恨による犯罪は確実に減ります。差別や偏見は最も忌むべき問題です。
アスペルガーがあろうとなかろうと、彼が犯した罪は彼の責任であり、罪を償う義務があります。
でもアスペルガーであることは彼の罪ではないので、追加された四年がアスペルガーのせいなら、その四年間は、彼が負うべき罪ではないと私は思います。
裁判官や裁判員の意図がそこにはないのはわかりますが、ただでさえ誤解されているアスペルガー症候群に対し、差別や偏見を助長しかねない表現がされていることには不安を感じます。
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