精神神経免疫学
「精神神経免疫学」という新しいジャンルの学問を知っていますか?患者さんの性格と病気との関係は、私も常日頃、実感として持っているものですし、特にアレルギーを含む自己免疫疾患や、胃腸の調子とストレスの関係などは、患者さん自身もその関連に気がついているはずです。心と身体の関係を指摘したものは古い文献にも記載があるし、一部の研究者によってストレスと免疫力の関係を実験によって明らかにした報告も少なからず存在します。にもかかわらず、現代医学では、心と身体の関係に対して真剣に取り組むことを避けているかのような時代が続きました。近年、心と身体の関係が学問として取り上げられるようになった背景には、直接命に関わるような病気に対する医学がある程度成熟し、すぐに死んでしまうわけではないけれど、多くの人が苦しんでいる状況に対処するだけの余裕が、我々の中に生まれてきたのが最大の要因としてあげられます。過去の歴史の中で、医学が対処すべき最大の敵は感染症でした。ひとたび強力な感染症が猛威をふるえば、一つの国が滅んでしまう可能性さえあったからです。その「病因」を探ることに多くの精力を傾けたお陰で、衛生環境の改善や検査方法の進歩、抗生物質などの開発により、「病原菌」が原因で起こる感染症による死者は(先進国では)激減しました。これは西洋医学最大の功績です。次に対応すべき敵は、やはり命に関わる病気、ガンや心臓疾患、脳血管疾患などで、以前であれば、ただ弱っていくのを見守るしかなかったであろう白血病なども化学療法で完治が可能になり、切り取ってしまえるようなガンや、心臓や脳、あるいは他の臓器の手術も進歩しました。その結果、西洋医学が得意なのは、検査結果に明確な異常が現れるようなものばかり。明らかな症状が存在するにもかかわらず、検査で異常が出なければ、なにも打つ手がないのが現状です。一般の患者さんは、検査でわかるような病気は医者に行けば発見できるはずだと思っているかもしれませんが、実は本来なら検査で発見できる例えばホルモン異常のようなものでも、医者の認識不足で(今は専門分野が細分化されているため、普段目にしない自分の専門以外はよくわからないことも多いんです)適正な検査が行われなければ、その原因は発見できず、治療も出来ません。その点東洋医学は、症状さえ存在すれば、原因や治療法も自然と導き出されます。まあ、同じ患者を診ても、みる人によって診断や治療法が異なり、いまいち再現性の乏しいところがネックではありますが、診断のつかないようなものなら、西洋医学よりは治癒の可能性は高いように思えますし、病気本体が治せなくても、症状の緩和や苦痛の軽減は望めるところが強みと言えるでしょう。要するに、西洋医学では、心と身体を切り離し、「病人を治す」のではなく「病気の原因をやっつける」医学を発展させたのに対し、東洋医学では、病気を起こす要因として、精神状態を重要視し、外から襲ってくる病因に対しても、本人の正気を補うことで自己治癒力を引き出し、本人の力で病気から回復することを目指してきました歴史があります。そこが西洋医学と東洋医学の最大の違いで、得手不得手もここから生まれていました。が、これからの医学は、その両者の足りない部分を補完し合い、より良いものにしていくことが命題ではないでしょうか。(東洋医学については、別の記事を書けたらいいなあ… と思います)そこで今回のテーマは、西洋医学的な見地から心と身体のつながりを考え、病気を外から襲ってくる外敵と考えるのではなく、自分の中にある、病気にならざるを得なかった要因を探る医学「精神神経免疫学」です。今までにも何度か書いてきましたが、感情が動けば、それに伴い自律神経やホルモンが変化します。身体的な変化を起こさない感情は存在しないのです。笑いによって、免疫細胞の働きが活性化されることは、実験で証明されていますし、ストレスを与えることで免疫力低下するという実験結果は、動物でも人間でも確認されています。そんな実験結果を見なくとも、大変な仕事を終えてほっとしたときに風邪を引く。大きな喪失の後に大病をしやすいなど、実感として知っていることは沢山ありますよね。ただ、これらの例は、今現在のストレスに対する身体の反応です。原因と結果がわかりやすく、時間が経てば解決できる、あるいは、自分で気をつけるだけでも予防できるかもしれない、言うなれば検査で確認できるようなレベルの病気です。精神神経免疫学で考えなければならない対象は、もっとずっと深い所に原因がある問題を解決することだと私は考えています。それはストレスに対する対応、もっと言えば、他者(や場合によっては自分)への対応の仕方、問題の解決方法における身についた習慣のようなものに注意を払うことではないでしょうか。
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