自分の頭で考えるー顎関節症
前の記事で顎関節症について書きながら、前にも記事にしたことがあったなーと思ったんですが、見直してみたら書きかけのまま止まっていました。 せっかくなので、続きを書いて記事を完成させることにしました。 先日「フェルマーの最終定理」という本を読みました。 三百年もの間多くの数学者達を悩ませてきたフェルマーの定理を一人の数学者が証明するに至るまでの経緯を、時代背景やその問題に取り組んできた天才達の戦いと共に描いています。 著者は読者に対しクイズのようなものを出題することで、本の中で登場する様々な数学的な理論を、専門的な知識がない人間にもわかりやすく解説しています。 これらの問題は、真剣に考えさえすれば、数学的な知識のない人にも解けるようなものになっていて、それこそがこの本の成功の鍵と言えるでしょう。 登場人物達はみな、数学の難問に取り憑かれています。そして読者も、著者の出題する問題を解くことを楽しんでいる。 この本がベストセラーになったのは、「人は自分で考えて答えを出す」ことに喜びを感じる生き物だからです。 私も考えることは好きで、知識を問うものより、考えれば解けるようなクイズが得意。このことが、仕事をする上でもかなり役に立っています。 病院ではレントゲンや血液検査など目に見えるデータを取ることが出来ますが、私たち鍼灸師には検査機器がありません。ですから、患者さんの話を注意深く聞き、自分の手で触り予測を立て、その症状の原因と治療の仕方を考えざるを得ません。 具体例を挙げるとこんな感じです。 少し前になりますが、顎関節症の五十代の患者さんがみえました。 発症は十年くらい前。何かを食べているとき顎がぐきっといって、顎関節に痛みを感じたのが始まりです。 数日しても治らないので、歯医者に行き、レントゲンを撮りますが顎関節に問題は見つかりません。 色々と医者を変えて診てもらったようですが改善せず、結局は顎関節症専門?の歯科で、歯の矯正を受けました。(数年前のことです) 百万円以上のお金と長い時間をかけた割には結局治らず、その後受けた鍼灸や整体治療でも、違和感は消えませんでした。 ここで私は考えます。私「○さんの症状は、俗に言う顎関節症ではないと思います。食事中に、がきっといって痛みが出たんですよね。それまでの人生(40代まで)で顎関節は痛くなったことがない。レントゲン上顎関節には問題なし。それと顎が小さいですよね。いま伺ったお話からすると、たぶん初めは顎の軽い捻挫だったのが、色んな治療を受けたために、常にいじられているから違和感が消えないくて、痛みや矯正の影響で硬い物が食べられないから噛む筋力が弱くなって、噛むとすぐ疲れるから違和感が出る。その上、常に違和感があるかどうか気にしているので微かな違和感にも気付いてしまうんじゃないでしょうか。首や肩が凝っていると歯が痛くなったりすることもあるので、それも関係あるかも知れません。矯正中は特に、首や肩が凝りますからね」 大体こんな説明だったと思います。もちろん実際にはもっと丁寧に時間をかけて、私の考えとその根拠をお話ししました。 患者さんは半信半疑です。そりゃあそうですよね。顎関節症専門の有名な医者の治療を受け、大金をかけ、十年も苦しんでいる症状が軽い捻挫で、放っておけば治ったかもなんて言われたわけですから、そんなはずはないって言いたくなります。 でも、思い当たる節があるらしく、説明の後は納得して治療を受けてくれました。 鍼灸にも、顎関節症に直接アプローチして効果のある、西洋医学で言うところの標準治療みたいなものもあるのですが、私は顎関節症の治療と言うよりも、痛みに対して緊張し過敏になったいるだろうと予測して、特に首から肩甲骨当たりまでを重視した全身の緊張を取る治療をしました。 まあ、誰にでもするし、誰に対しても、どんな症状に対しても効果の上がる治療です。 簡単に言えば、身体と心をリラックスさせ、自己治癒力を引き出してあげればいいんです。 患者さんは予想どおり体中が緊張していて、マッサージ後は呼吸が深くなりました。 顎関節に対しては、咀嚼筋を極軽くマッサージしたくらいで、ほとんどいじっていません。 そしてご本人にしてもらうこととして、咀嚼筋を強化するためにガムを噛むよう指示しました。 最初は小さなタブレットなど、柔らかいガムから始め、慣れてきたら二枚一緒に噛むとか、歯磨きガムみたいな少し硬めのものに変えていく。痛いときは安静にして、なるべく硬い物は噛まない。 気持ちが緊張していると違和感が出やすくなるので、なるべく楽しいことをしてリラックスを心がけること。心配しないことなどもお願いしました。 この1回の治療で、翌日は何年かぶりに何の違和感もなかったそうです。1週間ほどすると微かな違和感が気になりだしたので、2度目の治療となりました。ガムはちゃんと噛んでくれていたそうです。 2回目の治療でほとんど違和感はなくなり、3回目の治療が最後だったと思います。 本人の表情も俄然明るくなり、治療終了となりました。 これは、私が名医だったから治せたわけではありません。 顎関節症の治療ではなく、患者さんの違和感に対する治療と説明をしたのが良かったのだと思います。 難しい知識を沢山持っている人の中には、自分の知識と目の前にあるものとを照合して、どれかに当てはめようと考えてしまう人がいます。 当てはまるものが見つからないと、目の前にあるものが間違っていると考えたり、別のものなのに、無理矢理近いものに当てはめて処理してしまうのです。 知識は当て嵌めるためにあるのではありません。 特に命や身体について私達が知っていることなど、生命の神秘のごく一部でしかなく、その上個人差があり、時代に応じた新たな病気や問題があるのです。 ですから、全ての患者、全ての症状に当て嵌められるだけの知識を持つことは、どれだけ勉強しても不可能です。でも、ほぼ全ての患者、ほぼ全ての症状について考えるための知識を持つことは可能です。 個々の問題を考えるための基礎として、一定の知識はないとどうすることも出来ません。 ここではこれからも、身体についてお話ししていきたいと思いますが、筋トレ、ダイエット、リハビリ、怪我をしたときの対処法など、ここで得た知識を元に、皆さんが自分で考え、対応出来るようになることが私の目標です。
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