今、福島原発で起こっていること
いま福島原発内部では何が起こっているのでしょうか? 東京電力や政府は、情報を隠しているのでしょうか? 原子炉の状態や損傷の程度、どうすれば問題が解決できるのか。その辺のことは、当然私にはわかりません。それは政府や東電が情報を隠しているのではなく、実際誰にもわかないのだと思います。 でも、当事者達の心理や状況は、ある程度想像できるような気がします。そこが理解できると、原発で起きていることに対する見方が、少しだけ変わる人もいるかも知れないと考え、こんな記事を書いてみました。物事には、色んな見方があると思うのです。 まず福島原発の事故に対する責任は、間違いなく東京電力と国にあります。 福島原発は東電が所有する施設で、東電が運営しているのですから、責任があるのは当然です。 また、この導入には間違いなく国も関与し、原発が事故を起こさないよう監督する役目は国が担っていました。原発を運営するに当たっては、国は東電の上司のようなものです。 IAEAなどの国際的な機関も、この原発の安全性にお墨付きを与えていた。だから稼働しているのだと、私たちは信じていました。 では、東電や国は罪を犯したのでしょうか? 私はそうは考えていません。 この事故の責任を誰かが取るとしたら、それは東電と国であることは間違いなく、両者は最大限の努力で、この事態を収束させる義務があります。 被害を受けられた方々に対する補償も、出来る限り行うべきです。 でも、この事故を引き起こした直接の原因は、世界でも類を見ないほどの未曾有の災害です。 責任は東電にある。でも今回の事故を起こした真犯人は、自然災害ではないでしょうか。 今回の津波は、日本一(もしかしたら世界一かも知れない)の防潮堤を軽々と越え、専門家がいままでの経験を元に指定した避難場所さえ飲み込みました。 ここに逃げたために、亡くなった方もいらっしゃいます。防災担当者達はひどく悔いて、無力感や罪悪感に苦しんでいるようです。でもこれを、自治体や専門家の犯した罪だとして責めることが出来るでしょうか。力が及ばなかったとはいえ、過去のデータを元に、その時点でのベストは尽くしたのです。 東電が言えば言い訳にしか聞こえませんが、やはり想定外の大災害であったことは、客観的な事実だと思います。交通事故や医療過誤と同じで、もっと注意していれば防げたはずの事故だったかも知れない。でも、交通事故や医療過誤をゼロにするのは不可能なように、完全にどんな災害からも守ることが出来る施設を作るのは不可能に近いのだと思います。やはり原発は、それだけリスクの大きなシステムです。 感情論ではなく事実だけを見れば、東電は加害者であると同時に、震災による最大の被災企業でもあります。 私たちはつい、東電を責めたくなります。原発の記者会見などを見ると、東電の担当者に対して、明らかにけんか腰な記者さえ存在します。(これについては男と女の違いで解説します) でも考えてみてください。東電は大企業です。福島原発の導入や運営に決定権のあった人が、現在の東電に、また記者会見の場にいるでしょうか? 記者会見に出てくる担当者が、原発によって個人的な利益を得たり、誰かから搾取したりしたでしょうか? 東電という企業自体も同じです。 福島の市長かあるいは避難地域の町長が、「東電からの安全だという言葉に騙された、裏切られた」と怒っていました。その気持ちはわかります。でも、騙そうとして故意に嘘をついたわけではありません。東電自身が本当に安全だと信じていたんです。 この責任は東電だけではなく、元になる設備を製造販売した会社や、この原発の安全性にそれなりの保証をしてきたであろう世界的な機関やお役所の責任でもあると思います。 国においても、原発導入を決め、(なんの役にも立っていないように見える)原子力保安院などの制度を作ったのは、先日連立を申し込まれて、この期に及んで責任だけ取らされるなんて冗談じゃないと断った自民党の方々です。 いくつかの機関が改善のための提言をしたが、東電がそれを無視したとか、意見が生かされなかったなどの報道もありますが、無視できるような提言では、チェック機関としての意味がありません。 東電や国の事故後の対応に問題がないとは思いません。もっと何とか出来たのではと思う部分はありますが、どちらも初めての経験。いままでのノウハウで対応できるような生やさしい事態ではなかったし、各自が、各個人が本当の意味で責任を背負うことなど出来ようもない事態だと思います。 東電に限らず、大企業の現場仕事の多くは下請けの会社が担っています。そのお陰で、それらの会社が存続していけるわけですから、それが悪いとも言い切れません。 原発のような複雑で特殊な施設ほど、施設が稼働してから時間が経ち運用が安定すると、そこで動いているシステムの全容を理解している人は減っていきます。下請けや孫請けが多く、作業が分業化して行くにつれ、監督者である社員は、末端の作業について把握しきれない部分が出てきます。 現場の作業員達の多くは、自分の役割分担、言われたことをやるだけで、現場には精通していても、原発全体の仕組みや放射能の問題点などはわからないでしょう。 そんな中で、復旧作業は進められています。 原発の全体像を熟知し、現場で働く従業員を把握し、問題を解決するための具体的な方策を考えられる人は、東電内部でも、たぶんごく少数の人間だけです。ご自身も被災されたでしょうし、ご家族を亡くされた方もおられるかも知れません。 たぶん、この方々には交代要員がいません。満足に寝ることも食べることも出来ず、正に不眠不休。停電や故障で計器が使えなければ、原発内で何が起きているのかは、現場の彼らでさえ把握するすべはほとんどないでしょう。電気もなく、瓦礫が散乱し、高い放射能に悩まされながら手探りで働いている。 本来のバックアップのための設備が使えなければ、いままで訓練していたこと、想定していたシステムは動かせません。今回使用されたアームが長く伸びるコンクリート用の放水車なども、所有者などが協力を申し出てくれなければ、その存在すら、東電が知ることはなかったでしょう。 津波でさらわれさえしなければ、バックアップ用のポンプや発電機も、ちゃんと用意してあったのです。 そんな状況で彼らは、考えられる限りを尽くしていま起きている問題にとにかく対処し、目の前の問題に日々追われています。 現場を指揮し、状況を把握し、今後の方策も考えなければいけない人が、1日に何度も東電本社や政府に状況を説明しなければなりません。 何かが起きる度に、説明を求められれば、現場での対応がそれだけ遅れます。 そして、命がけの決意で参加した消防や自衛隊など、ピリピリした雰囲気の中で外部の人達に協力してもらうには、それなりの準備や説明が必要です。 ちょっと考えただけでも、彼らがどれほど神経をすり減らし、消耗しているかが想像できます。 計測した数値を勘違いしたり、正確な状況を説明することが出来ないのも無理はない。私はそう感じてしまいます。 全体の状況を判断し次の方策を考えるには、一度現場を離れ、それなりに落ち着いた環境で、同じような立場の方々や専門家達と協議し判断していく必要があるでしょう。 国内の他の原発の担当者達は、今回の事故を受け自分の受け持つ原発の点検や問題の洗い出しに奔走しているかも知れませんが、いまはそれを後回しにしてでも、福島に知恵を結集し、早急に問題を解決して欲しいものです。 でもここに、現場を知らない専門家が参加しすぎると、かえって話し合いが混乱します。多くの知恵は借りたいものの、口ばっかりの権威は邪魔になる、苦しい現実です。 福島の方々も、今回は被害者になってしまいましたが、原発による雇用や税金で、地元はそれなりに潤ってきた事実もあります。本来は持ちつ持たれつの関係だったはずです。 今回の事故により、家や仕事を失った方々が東電や国を恨むのは当然のことですが、原発による電力を使用している関東に住む我々は、せめて東電の社員を攻撃するようなことは慎むべきなんじゃないのかなと思うわけです。 ちなみに放射能による健康被害は、かなり高い値の放射線量にならなければ発生しません。ある程度の放射線を浴びたとしても、喫煙や自動車事故、中国などの公害による健康被害に比べると、ずっと影響は小さく、今の時期でいうなら、インフルエンザの方が比較にならないほどリスキーです。 人間というのは不思議なもので、慣れ親しんだリスクにはさほど恐怖を感じませんが、未知のものには過剰に怯えてしまいます。特に放射能に関しては、未来の核戦争における放射能汚染で、地球が壊滅するような描写に使用されることが多く、破壊的なイメージが強いのかも知れませんね。
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