脳の機能から、発達障害の原因を考える
例えば、私達が誰か特定の人を覚えるときには、その人の名前、外見や声、自分がその人から受けた印象、その時の状況、その人に纏わるエピソードなどを、無意識のうちに一緒に記憶します。
その人を特定するための様々な要素を関連づけて覚えるわけです。
この関連づけが行われない相手、印象の薄い人や、自分とは何の関わりもない人などは覚えられないですよね。
このように、私達の脳が何かを認識するときには、特定の脳細胞だけが働くのではなく、関連するあらゆる部分が同時に反応し、何かが別の何かを呼び覚まし、連携することで認識を生み出しているんです。
それを子供の頃から繰り返すことで、脳内では効率の良い回路が形成され、記憶は定着し、あらゆるものを認識するのが容易になります。
しかし発達障害の人は、個々の神経回路が連絡を持たず常に独立しているため、脳内で一度に沢山の情報を処理することが難しく、記憶の定着が困難なのではないでしょうか。
これとは逆に、必要ない神経が勝手に同時発火してしまうのが共感覚を持つ人の神経回路です。
共感覚の持ち主は、文字に色が付いて見えたり、音に色を感じたりしますが、それは本来なら同時発火する必要のない「色を感じる神経細胞」が勝手に働いてしまうことで起きる現象です。
また、脳卒中などで、後天的に脳損傷を起こした人に出現する脳障害と、発達障害の人達の症状に共通点があることから、「特定の脳細胞の形成が不十分なのでは」という疑いも起こります。
脳卒中の患者さんの中には、右の片麻痺と共に失語症を併発する人がいます。
失語症には、言葉の理解が出来ない感覚性失語と、意味はわかっても、正しい発語が出来ない運動性失語があります。
感覚性失語は、ウェルニッケの中枢と呼ばれる部分が壊れることで起こることはわかっていますが、この部分が具体的にどう働いているかはわかりません。
この場合、言葉の意味がわからないと言っても、全ての言葉が理解できないわけではありませんし、痴呆でもありませんので、言葉と対象物が結びつけられないのかなと思います。認識の問題です。
一方運動性失語とは、言葉を話すための舌や唇の運動などが上手くできない、発語麻痺とでも言うべきものです。
考えてみれば、言葉を話すというのは凄いことですよね。
動詞や名詞や助詞や形容詞に至るまで、多くの言葉の中から、今使うのに最適な言葉を瞬時に選び、声の大きさやイントネーショやニュアンスを調整し、肺から出す息の量や、声帯や唇や舌の形を変え、相手にわかるように発語しなければならないんです。
前半部分が上手く出来ないのが感覚性失語で、後半部分の障害が運動性失語ですね。
そして今回主役の発達障害ですが、どうやら発達障害の人にも、この区別があるようなのです。
脳卒中の場合は、正常に形成されていた部分が壊れることで失語が起こりますが、発達障害の場合は、このような働きをする神経細胞あるいは、神経回路の形成自体が上手くいかなかったのではないでしょうか。
実際に脳の活動を調べてみると、学習障害の子供達とそうじゃない子供達とは、文字を読むときに活動する脳の場所が明らかに違っているようです。
脳の神経回路は、生まれたばかりの赤ちゃんではまだ完成しておらず、産後の経験により形成される部分が多いので、何らかの理由でこの形成が阻害されると、「上手くできないこと」が増えてしまうと考えられます。
その証拠に、人の感情を理解できないアスペルガー症候群の子供の中には、正常に音が聞き取れていない場合や、相手の表情を正しく認識できていない子供がいて、その部分を訓練することにより症状が改善したという報告があるのです。
音の聞き取りや表情の認識は、一見感情とは関係なさそうな機能ですが、これは私たちが人の表情や声のトーンから、相手の感情を読み取っている証拠です。
例えば私が患者さんに、「大丈夫ですよ」と言うときには、相手に安心感を与えるような表情や声のトーンで話します。
これはいちいち考えて変えているのではなく、自然になってしまうわけですが、アスペルガーの人ならそうはしないでしょう。
アスペルガーの人は、相手のニュアンスも感じ取ることが出来ないので、自分が表現するときも、そのニュアンスを使うことが出来ません。
と言うより、人の言葉の中にそんなニュアンスが含まれているということに気付いていないと言った方が良いかもしれませんね。
ですから、そこにきちんと注目し、感じ取ろうと努力すれば、改善する可能性もあるわけです。
「火星の人類学者」という本では、アスペルガーの当事者が、他人の感情を本などから学んでいて、まるで自分は火星人で、人類を研究しているかのようだと言っています。
こういった部分については、早期発見早期治療が、効果を発揮する可能性を感じさせます。 何故大部分の人には自然に形成される脳細胞や神経回路が、発達障害の人の脳内では形成されないのか? ですが、その原因はわかっていません。
近年増えているように感じられるのも、昔はそれがその子の個性として認識されていただけなのか、環境の影響で増えているのかも不明です。
アメリカのデータでは、何らかの学習障害がある子供の数は、(データによりばらつきはありますが)全体の10%前後と言われているようです。(以前は、日本語のカナが文字と音が常に一致しているのに比べ、英語はAを「あ」と読んだり「お」と読んだりするなど一致していないために、読み書き障害については、アメリカなどの国で発生しやすく、日本では少ないと考えられていました。
しかし、日本人がそんな子供の存在を無視してきただけで、本当は他の国と大差ない発生率なのではないかと思われます)
ただ、遺伝的な要素が少なからずあることだけはわかっているので、遺伝情報の中に原因の一端があることは間違いなさそうです。
但しそれは、確実に遺伝するものでもなければ、親に責任があるわけでもありませんので、そこだけは間違えないでいただきたいと思います。 *今更ですが、ここに書かれている発達障害の原因は、遺伝の部分以外は医学的に検証されているものではなく、私の勝手な推測にすぎないことをお断りしておきます。
0コメント