失うことと、手放すこと
やっと引っ越し先が決定し、現在引っ越し準備中です。ところで、新治療院の物件を探しまくり、なかなか決まらない間に、自分の気持ちが目に見えて変化してきました。私は患者さんに、「こだわりを手放すと楽になりますよ。捨てるとか、失うとか考えるんじゃなくて、ちょっと手放してみるだけです。それが本当に必要なら、もう一度掴み直せば良いんです」そんなことばかり言っているので、「私はこだわりがない人間だな—」なんて思っていたんですが…。私が現在治療院件住居として使っている部屋は、麻布十番の駅からすぐの80平米越えのマンション。以前は二人でやっていましたが、ここ5年くらいは一人でやっているのに治療室は2部屋、リビングもベランダもめちゃ広くて、とても贅沢なところです。私は商売っ気がなくて、宣伝もほとんどしないし、「次はいつ頃来ればいいですか?」なんて、患者さんに聞かれると「若くて健康な人が定期的に治療に通わないと健康を維持できないなんておかしい。悪くなったら来てください」と答えているので、来院時に次の予約を取るようなことはありません。なので、何年かに一度しかみえない方とか、ご自分は一度しか来ていないのに、何人も患者さんを紹介してくださる方とかも多くて、そしてこの不景気。そんなこんなで、家賃が払いきれなくなっていたのに、つい最近まで、私はここを出ることを、全く考えていませんでした。ここの内装はすごく凝っていて、初めて来院された方はまず驚きます。私の友人に内装のデザインから工事?までを頼み、安いお金で休み無く働いてもらいました。もちろん私も一緒に働きます。知人から紹介してもらった木工作家の方に相談し、一年中裸足で気持ちいい桐の床板を作っていただいて、それに自分たちで柿渋をぬり、端を電動のこぎりでカットして、絨毯用のごつい両面テープではりました。それ以外にも、親友の旦那の親友の内装屋さんに原価で壁紙をはり直してもらったり、とにかく沢山の人たちの汗と、協力と愛情によって完成した内装、もちろん患者さんにも愛されています。(私ではなく、この部屋の景色を含めた癒し効果が、多くの患者さんを惹きつけていることは間違いありません)私の努力不足でそれを手放すわけにはいかない。その人たちの恩に報いるためにも、ここで続けて行かなくちゃいけない。そう信じていたんだと思います。もちろん、私はこの部屋が大好きで、自分自身の愛着もすごくあります。でもここを離れられなかった最大の要因は、患者さんや自分のこと以上に、「ここを作るために協力してくれた人たちを裏切れない」そんな気持ちだったことは今や明確です。ですから、部屋を探し始めた当初、私が沢山の部屋を見ても、迷ってなかなか決められなかったのは、「この部屋だとあれが置けない。あっちの部屋だとあれも置けるけど家賃が高い。こっちは玄関やベランダも広くて色々持ってこられる上に家賃もそこそこだけど、無駄な空間が多くて場所がわかり難い。どこも一長一短ある。でもやっぱり、なるべく今ある物をそのまま移せるところ、もみじと黒竹を置けるベランダがあるところじゃないと…。特に玄関を入ったところにあるお蔵の扉と花器、これはうちの象徴だから、置ける空間があって…、」そんな物件を求めていたんです。でも、家賃を安くするために移るので、そんな条件に合う部屋が出てくるわけがありません。ごく当たり前のことですが、広くて安いところは、すごく古いか、駅から遠いか、階段か、間取りが使いにくいか、とにかく何か家賃を下げなければならない理由があるわけです。患者さんがそんな部屋に来てくれるでしょうか?そして、ベランダの黒竹や、玄関の壺がなければ、患者さんは来てくれなくなるでしょうか?部屋を選ぶ基準が、今の持ち物を維持することに向けられていて、治療院をやりながら私が住むのに適した部屋を選ぶという、一番大切なことが二の次になっていました。決められないから風水をみる。患者さんや友人に相談する。どの助言も適切で、真理を突いています。結局、大切なのは自分の気持ち。私が何を譲れなくて、何を手放すかを決めねばなりません。こだわっていたベランダのもみじを手放そうと決めたら、一気に気持ちが楽になりました。もみじを手放すのなら、これだって手放しても良いんじゃないの?これがなくても、患者さんは来てくれるんじゃないの?そう思い始めたら、物件の選び方が変わりました。なるべく多くを手放して、身軽になれる部屋が良い。良い部屋がなかったら、実家に帰って(実家は葛飾ですから通うことだって可能です)どこか外に勤めるのも良い。でも、せっかくここで6年もやってきたから、私が辞めたら寂しがる人も3人くらいはいるだろうし、(3人に聞いたところ、3人とも寂しいと言ってくれました)スリムになって、もう少しこの土地でやろう。そう思い、小さめだけど、条件の良い部屋に決めました。多くを手放そうと決意した割には、治療院の物はあんまり手放さなくても済みそうです。自分の部屋が狭いので、私物はかなり処分する必要がありますが、これにはこだわりがないので全然未練はありません。まあ、実家に送っても良いし。悩んだ結果はそんなものです。この部屋だからこそ得られた出会いが沢山ありました。ここをはじめた当初の私にとって、この空間は他に変えられない物でした。でも今は違います。この空間じゃなくても、患者さんは来てくれるはずです。(たぶん、まあ、何人かは…)私は運命論者です。今までの人生、積極的に何かをしようとしたことなどないのに、自然な流れで色んな変化を体験してきました。一見ネガティブな出来事に思えることほど、私を成長させてくれました。だから今回もきっと、良いことがあるんじゃないかな—と思っています。次回は、新治療院決定のお知らせをする予定です。
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