慢性疼痛の原因 その2

それでは、その下がったままの疼痛閾値を上げる(正常に戻す)にはどうすれば良いか?
その方法が、私が患者さんにした事、優しくさすることです。
そんな簡単なことで、激しい痛みが治まるはずがないと思われるかもしれません。でも、現実に、ごく自然な現象として、痛みの閾値は、適度な強さでさする、あるいは患部を押さえることで上がってきます。
一部の例外は有りますが、私の経験では、ほとんどの患者さんの激しい痛みは、10分後、20分後には、さすり始めより格段に和らいでいるし、1度目の治療時より、2度目の治療時のほうが、刺激を少し強くしても痛がりません。
もちろん、全ての痛みに対して有効なわけではありませんし、刺激量を間違えば、神経を一段と緊張させてしまい、逆効果になる可能性もあります。
私の経験上、さすることで閾値が上がると思われるものは、捻挫や肉離れ、肋間神経痛です。これらの症状ではさすった後、本当に痛い場所が残るので、そこに鍼灸治療が必要ですが、1度の治療でかなり痛みが取れます。
そして、たぶん線維筋痛症、ストレスから来る体の痛み(腹痛などでもいける)、ただの痛がりさんなども、治療前と治療後でかなり違いがでます。治療の時は、さするだけではなく指圧もしますが。
さするだけでは閾値が変化しそうにないもの(もう少し強い刺激や鍼灸で治療してしまうので、試したことがないだけかも?)、坐骨神経痛、頚腕症候群、ぎっくり腰や寝違い、五十肩など。
なぜさする、あるいは患部を押さえることで閾値は上がるのでしょうか?
神経過敏はいわば花粉症のようなもの。花粉なんて身体に取り込んだって問題を起こさないから放っておいてもいいのに、危険なウイルス並みに身体が過剰に反応して、自分が苦しい。他に外敵(ばい菌や寄生虫)がいない、清潔すぎる先進国特有の病気です。
ポイントは神経に、過剰な警戒心を解かせ、「痛い→緊張する→神経過敏→些細な刺激で痛い→緊張」の悪循環の連鎖を断ち切ることです。
私は患者さんの身体をさする、あるいは押さえるとき、患者さんの身体に向かって「大丈夫だよー、これは危険な刺激じゃないよー」と心の中で話しかけているわけです。ヘンですか?知覚神経の過剰な警戒心を解こうとしているわけです。
医学的に言えば、痛みを伝える神経線維と、触られた押された感触を伝える神経線維は別にあります。
通常の痛覚が、1の刺激に対して1本の神経線維を興奮させるとすれば、知覚過敏時は1の刺激で10本の神経線維が興奮してしまうような状態です。(神経が活性化されるとき、神経の興奮と呼びます)
さする、あるいは押さえることで、痛覚ではなく、触圧覚の神経線維を興奮させてやります。すると感覚を受け取る中枢神経は、今まで痛覚刺激にばかり気をとられていましたが、今度は触圧覚刺激を感じ取ろうと注意を向けます。
その結果、今まで痛覚を伝えるために働いていた神経線維が、触圧覚を伝えるために働き始め(痛覚の10本が5本になり、残りは触圧覚へ)、増強されていた痛覚刺激が正常に近づく、そんな感じです。
さすり始めは触圧覚刺激も、痛みとして中枢に伝わってしまいますが、さすることによる適度な刺激は、それが危険ではないことを身体に理解させ、徐々に緊張を解いていく。私は、そんなイメージを持っています。
ゲートコントロールセオリーでは、痛覚を伝える神経線維より、触圧覚を伝える神経線維のほうが太いので、中枢神経に入り込むゲートに優先的に進入し、痛覚を遮断するといった説もあります。
だから脛などをぶつけた時、患部を強く押さえると痛みが和らぐわけです。
いま思いつきましたが、冷やしたり、暖めたりする刺激も、血流の改善や炎症を抑える作用だけでなく、温度覚を伝える神経線維を興奮させることで、痛覚を遮断するのかもしれません。
痛みをコントロールする方法は実はいろいろあって、私がよく使う小さな鍼をシールで皮膚に貼りっぱなしにするもの(円皮鍼、皮内鍼)は、寝違いやぎっくり腰のような、動かして痛む症状では、劇的に痛みを和らげます。 続く

治療院アジアート

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